廣文館廣文館

廣文館

店舗ごあんない
本を探す【e-hon】
本を注文するには
お買い得の本
ひろしまの本

HON-TOカード
コラム・ブックレビュー
スタッフ募集
お役立ちリンク集
会社概要
IR情報
HOME


株式会社 廣文館
〒730-0035
広島市中区本通り1-11
TEL:082-248-2391 
FAX:082-248-2393
E-mail:info@kobunkan.com
コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

午前三時のルースター
垣根涼介著(文春文庫 670円+税)

最近は、初めて作品を読む作家が続く。今回の垣根涼介氏も初めてだ。しかも、デビュー作であり、サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞した作品である。

コラムを書いている身としては、最初の書き出しがどうしても気になる。最初の印象が良ければ、一気に気分が乗っていく。「満たされぬ者だけが、煌めきを見る」という言葉に始まり、プロローグは「成田空港のパーキングには、雨ざらしになったまま放置されているクルマが常時数台はあるという」という書き出し。そして、駐車場のオヤジとのさりげない会話が続く。実に見事な導入部に、思わずうなってしまった。

旅行代理店に勤務する「長瀬」が物語の語り手である。得意先の中西社長に孫の慎一郎のベトナム行きに付き添ってほしいという依頼を受ける。慎一郎の本当の目的は、家族に内緒で、失踪した父親の消息を訪ねることだった。ここで最初のプロローグとつながってくる。慎一郎と長瀬の友人・源内とベトナムに出かけ、娼婦・メイ、運転手・ビエンと共に父親を探す。一行を何者かが妨害し、最後にたどり着いた結末は…。疾走感にあふれるストーリーテリングのハードボイルドミステリーだ。

長瀬をはじめクセのある登場人物ばかり。その人物描写や情景描写が秀逸である。ベトナムに行ったことはないが、街の匂いや人々の息吹が生々しく伝わってくる。バイクやメカの知識がマニアックで、著者の人間性が垣間見える。爽やかな読後感で、一種の青春小説といってもいい。

タイトルのルースターは「一番鶏」である。物語の最後に「サイゴンの田舎のホテルで午前三時に一番鶏の鳴き声を聞いた」とし、「この街で、この国で、一番鶏の鳴き声を聞かなくなってから、久しい」と締める。書き出しと締めに、この作家の筆力を感じた。2作目の「ヒート アイランド」が絶賛を浴び、続く「ワイルド・ソウル」が大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞のトリプル受賞したのもうなずける。

【ジャーナリスト 枡田勲 2020/1/8】


▲ページトップ back

Copyright(C)2005 KOBUNKAN.All rights Reserved.