安倍政権の経済政策、いわゆる「アベノミクス」について、新聞や雑誌で目にすることは多いのだが、「どこまで理解しているのか」と問われたら、残念ながら心もとない。そこで、「アベノミクスは日本に何をもたらしたか」という副題に興味をそそられたのが、この本を読むきっかけである。
アベノミクスがはじまって、7年半になる。最大の目標に掲げたのが「デフレ脱却」だ。異次元の金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」政策を推し進めてきた。だが、目標とする2%の物価上昇率には達していない。
「安倍一強」といわれる体制の中で、おごりや不始末が頻発しているにもかかわらず、長期政権を維持し、高い内閣支持率を保ってきた。その要因は、日本銀行による国債や株式の大量買入れにより、資産家階級が株価上昇で潤い、低い失業率と就職率の良さが続いてきたことにある。その意味で、一面ではアベノミクスは成功しているだろう。
小泉元首相を引き継いだ安倍首相だが、小泉政権の経済政策とアベノミクスは大きく違っている。小泉政権は、政府の規制を最小限にして自由競争を重んじる「新自由主義」で小さな政府を目指す。一方、アベノミクスは民間の経済活動に国が介入し、日銀のカネをじゃぶじゃぶ市場に流して財政を拡大する「大きな政府」の政策である。
このアベノミクスを立憲民主党の枝野代表が「日銀まで株を買い、皆さんの年金の金で株を買っている。日本の最大の機関投資家は、日銀まで含めれば政府だ。政府が最大の株主である国って社会主義じゃないですか」と指摘している。この指摘はなかなか本質をついている。
安倍首相の祖父・岸信介元首相は戦前、満州国の経営を担い国家社会主義を推し進めた。岸の交友関係には多くの社会主義者がいた。安倍首相は国民皆保険や国民年金を作り上げた岸首相の考え方を色濃く引き継いでいて、アベノミクスは理論的には左派が得意とする政策だ、と著者は指摘する。
安倍や岸は一般的には「保守」「右派(それもタカ派)」の政治家と分類されている。だが、経済政策に焦点を当てると、保守政治家という分類に当てはまらない。それが、この本の題名である。そして、一つ付け加えておきたい。安倍政権は新型コロナ対策で膨大な財政出動を余儀なくされ、アベノミクスは破綻してしまうだろう、ということである。
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