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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

革命前夜
須賀しのぶ著(文春文庫・890円+税)

書店で平積みの本を眺めるのは、至福の時である。本の帯に躍るコピーを読みながら、タイトルと著者の名前を見比べる。どんな物語なのだろうか、と想像の翼を広げる。

それにしても、まだ名も知らない作家の何と多いことか。次々と新しい作家は誕生するが、この出版不況の時代にどれだけの人が生き残るのだろう。そんな思いで手にした1冊が、この本である。帯には文庫担当が今、1番読んでほしい本として「不意に出会ってしまった傑作に、しばらく他の本が手につかなくなるくらいの放心状態になりました」との感想が載っていた。

今から31年前の1989年、ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツが舞台である。主人公はバッハにあこがれ、ピアニストを目指して東ドイツ・ドレスデンの音楽大学に留学する日本人青年、眞山柊史。ハンガリーからの留学生でヴァイオリンの天才「ラカトシュ・ヴェンツェル」、ヴェンツェルと並ぶヴァイオリンの逸材「イェンツ・シュトライヒ」、北朝鮮からの留学生「李英哲」ら同世代の個性あふれる才能たちの中で、柊史は自分の音を求めてあがく。

そのころの日本はバブルの時期、冷戦末期の東ドイツは日本とは全く異なり自由が厳しく制限される監視社会だった。ある日、教会で美貌のオルガン奏者・クリスタ・テートゲスに出会う。彼女は、秘密警察(シュダージ)の監視対象だった。密告、裏切り、友情、自由…。冷戦下でベルリンの壁が崩壊していく前のまさに「革命前夜」の姿が、生々しい筆致で描かれている。

音楽小説だが、激動の東ドイツを描いた歴史小説でもあり、ミステリーでもある。音楽小説としては恩田陸の「蜜蜂と遠雷」よりも面白いと感じた。ピアノやヴァイオリン演奏の描写など、難しい音楽の分野をこれほど表現豊かに描くことができるとは。その圧倒的な筆力に感服するばかりだ。

この本を読んだ後、図書館で筆者の作品を2冊読んだ。「スイート・ダイヤリーズ」と「ゲームセットにはまだ早い」。どちらも一気に読んでしまった。元々童話作家からスタートして、青春小説からミステリーまで幅広いジャンルで活躍していることを知った。コロナ禍の巣ごもりの時に、また新たな作家と出会えたことに感謝、感謝である。

【ジャーナリスト 枡田勲 2020/12/15】


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