城ブームといわれる。城ファンの多くが思い浮かべるのは「なみなみと水たたえた堀、見事な石垣、そしてそびえる天守」だろう。世界遺産の姫路城を見に行って、その見事さにうっとりとした思い出がある。
ところが、最近は戦国時代の「山城」が認知されるようになってきた。山城がもてはやされるようになったきっかけは、兵庫県の竹田城だろう。霧の中に浮かぶ「天空の城」は城ファンならずとも、その魅力に引き付けるられる。
日本に城は3万とも5万ともあるといわれ、そのほとんどは戦国時代に築れた山城である。姫路城や広島城、松江城など都会の平地にある城はごく一部なのである。山城には天守などの建物はないが、空堀や土塁、曲輪といった土でできた遺構が400年以上の時を超えてそのまま残っている。
本著は、中国地方の45の山城を自分の足で登り、その魅力を伝えた一冊ある。著者が最初に登った山城は、山陰の安来市にある「月山富田城」だ。戦国大名の尼子氏の居城で、削って平らにした曲輪や堀、土の壁である土塁、石垣などの城郭遺構が見事に残っている。しかも、城郭の主要部分は樹木が伐採され、手入れが行き届いている。
登山道も整備されて登りやすく、頂上の本丸跡からは眼下に飯梨川と広Pの街並み、遠く中海、島根半島まで見渡せる。戦国時代、尼子氏は毛利氏と中国地方の覇権をかけて攻防戦を繰り返した。兵どもが戦った夢の跡が伝わってくるようだ、と筆者は記す。
戦国時代前半の中国地方は、西国の大内氏と山陰の尼子氏が二大勢力。後半は毛利氏が台頭して、中国地方を制覇していく。毛利氏の本拠である吉田郡山城をはじめ、取り上げた山城は毛利氏と何らかのかかわりがある。本著はそのあたりの歴史をひもときながら、山城の魅力を語っていく。
山城の多くは、ハイキングや散策に適した高さで登りやすい。草花を愛でる自然観察や森林浴などの山歩きに城跡探索が加わると楽しみが倍加する、という。筆者が撮ったカラー写真が100枚以上掲載されていて、山歩きのガイドブックとしても利用できる本である。
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