広島市内の書店に、前回この欄に紹介した「兵どもの夢の跡」と「瀬戸の島旅手帖」が並んでいる、と友人が教えてくれた。共に著者が地元の人で、出版されたのも昨年の4月と同じ、という縁がある。
さらに、この本の7、8章は中国新聞セレクト紙に連載されたもので、私も現在、セレクト紙に瀬戸内海の離島巡りを連載している、という縁もある。私は25年前に新聞記者として足掛け3年、瀬戸内海全域を取材して回った経験がある。それだけに、「瀬戸の島旅手帖」を読んでいると、実際に見た景観がよみがえってきて、しばし感慨に浸ることができた。
この本には瀬戸内海の島旅の面白さ、醍醐味がいっぱいに詰まっている。「西瀬戸の船旅を楽しむ」、「島山に登る」、「海賊の島を歩く」「瀬戸の温泉を浴びる」といったくくりも興味深い。それに、カメラマンの撮った瀬戸の風景が何と美しいことか。
「島山に登る」の序に「豊かな表情を見せる瀬戸の四季の風景。たまには島山から眺めてみるというのはいかがだろう。日常のちっぽけな悩みなんか吹き飛ばすような島々が織りなす絶景が、そこにはある…」とある。「瀬戸の温泉を浴びる」の“河野温泉”では、「波の音、汽笛も時折響いてくる。そしてあなたはやがて、風に乗って漂ってくる尾道水道の潮の香りや波音とともに、深い眠りに落ちることだろう」。「瀬戸の温泉を浴びる」の“鳩子の湯”では、「旅のあとでもしばらく室津や上関の『てんぷら』を肴にしてビールを一杯、というプチ贅沢を味わえることになる。これが意外といける」とくる。
うまい。実にうまい。歴史や故事来歴をさりげなくちりばめた著者の文章には、遊び心や哀感が感じられる。新聞記者を40年ほどした私は、かけだしの頃にデスクから「新聞記事は事実を一つ一つ積み上げるんだよ」と修飾語を容赦なく削られた。それから、簡潔だが面白味の欠ける文章になってしまった。それだけに、米山さんの文章にあこがれてしまう。
値段は「兵どもの夢の跡」と同じだが、こちらの方が内容も、ページ数も写真も比べようもないほど上をいっている。瀬戸内海の島旅は、都会の喧騒から別世界へいざなってくれる。ゆったり、まったりした島時間は何とも心地よい。この本を読んで、瀬戸の島旅を楽しんでほしい、と思う。
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