俳句ブームである。テレビ番組の「プレバト!!」がその立役者だ。毎週楽しみ
に見ていて、俳人・夏井いつきさんと梅沢富美男さんの“バトル”に笑い、夏
井さんの素晴らしい添削に毎回感心させられている。
私も俳句が好きで、たまに一句ひねるが、自分ながらその下手さにあきれて
しまう。それでも、新聞の俳句欄は欠かさず見るし、たまに句集を手にするこ
ともある。そして、見つけたのがこのブックレットである。
サブタイトルに「飯田秀實 随筆・写真集」「蛇笏・龍太・秀實の飯田家三
代の暮らしと俳句」とある。飯田蛇笏(1885〜1962)と龍太(192
0〜2007)の親子は、著名な俳人で俳誌「雲母」を主宰していた。秀實は
龍太の長男でテレビ局に勤めた後、「山蘆」守として山蘆の維持管理をしている。
飯田家の自宅「山蘆」は山梨県笛吹市境川町、甲府盆地の東側を取り込む御坂
山系の一角に位置する。山蘆からいつも散策する裏山「後山」から正面に八ヶ
岳、左に南アルプスの連山が望める。
山蘆周辺では、さまざまな木々が茂り、四季折々の花も咲く。蛇笏、龍太は
後山を散策するのが好きだった。そして、多くの句をよんだ。後山は、秀實の
遊び場だった。秀實は美しい木々や花、風景を見事に写真に収めている。その
写真に蛇笏と龍太の句を添えている、いや、句に写真を添えていると言った方
がいいのかもしれない。
蛇笏は椿をこよなく愛し、龍太は梅の花や辛夷(こぶし)の花が好きだった。
〈大空に彫られし丘のつばき哉〉蛇笏 〈白梅の紅梅の深空あり〉〈満月に目を
みひらいて花こぶし〉龍太
5月中旬になると、蛇苺(いちご)の黄色い花が咲く。しばらくすると直径
1aほどの小さな赤い実をつける。飯田家ではこの実を摘んで焼酎に漬け「蛇
苺酒」をつくる。虫刺されや蚊、蛇、蜂に刺されたところに塗る常備薬だ。〈田
水みち日いづる露に蛇いちご〉蛇笏
山蘆の裏を流れる狐川にはゲンジボタルが飛び交う。〈蛍火や少年の肌湯の中
に〉龍太
10月3日の蛇笏忌(山蘆忌)を待っていたかのように、ギンモクセイの可
憐な白い花が咲く。〈天つつぬけに木犀と豚にほふ〉龍太 〈をりとりてはらり
とおもきすすきかな〉蛇笏
山蘆の冬は厳しい。〈一月の川一月の谷の中〉龍太
秀實の美しい写真を見ながら、素晴らしい句をつぶやいてみる。蛇笏・龍太
の句は何と格調の高いことか。しばし、至福の時を持つことができた。文字通
り自然に寄り添っている俳人の生き方に、あこがれを覚える。
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