副題に「大戦・冷戦・テロの真相」とある。歴史上、人間の生命を最も多く奪ってきたのは病気と戦争といわれる。このうち、病気は現在も新型コロナウイルスの感染が収束していない。また、戦争では2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻が、1年を過ぎても終わっていない。
本書は約100年間に発生した88の戦争や内戦、大規模な政変を取り上げ、なぜそれらが発生したか、どのように拡大し、終結したか、あるいは終結していないかを描き出している。いわば、戦争を「正しく恐れる」ための基本情報だ。
ロシアのウクライナ侵攻では、「プーチンの戦争」と言われている。だが、著者は「ほとんどの戦争に共通しているのは、一部の権力者の独断や欲求だけで始まったわけではない」という。ポイントとして一つは世界全体を管理する政府、いわゆる「世界政府」がないことを挙げる。国連は独立国家が集まる場のすぎず、加盟国に平和を強制する力はない。国連は「世界政府」ではないということだ。
もう一つは、国際政治の主体である国家が、その成り立ちからして戦争と深く結びついていることである。フランスの哲学者ロジェ・カイヨワは「戦争が国家を生んだとしても、国家も戦争を生んだ」という。ただ、平和を願っても戦争は避けられない。戦争を知ることが戦争を防ぐ最大の予防策。無関心、思い込み、過剰反応が状況を悪化させる点で、病気と戦争は同じだ、と著者は述べる。
第1章は「第1次世界大戦−総力戦の幕開け」。第2章の「第2次世界大戦−史上最大の戦争」、第3章「東西冷戦」、第4章「植民地主義の清算−境界線の呪い」、第5章「グローバル化の影−誰もが武装できる世界」、第6章「対テロ戦争の嵐−イスラム過激派のグローバル・ジハード」、第7章「相互依存とハイブリッド戦」と続く。
1989年の冷戦終結で米ソが核兵器を突きつけ合う「恐怖の均衡」は過ぎ去り、世界が平和になったと高揚感があふれた。しかし、冷戦後の世界では戦闘そのものは減らなかった。イデオロギーの対立終結は、それまで封じられていた民族や宗教に基づく対立が噴出する。
とりわけ、アフリカでの紛争が頻発する。ケニアの「マウマウの反乱」、アルジェリア独立戦争、スーダン内戦、コンゴ動乱、ローデシア内戦、ビアフラ戦争、モザンビーク内戦、アンゴラ内戦、西サハラ紛争…と挙げればきりがないほどだ。
そして、モノ、カネ、ヒトが自由に異動するグローバル化の時代、政治的に対立していても関係を遮断できないというジレンマに陥っている。体制の不満を抑えるため各国でナショナリズムが高まった。ウクライナ侵攻でも、ナショナリズムの加熱が政府を突き動かす様相がみてとれる。
この本を読んで、世界中でこんなに戦争や紛争が絶え間なく続いているのか、と驚かされる。人間というものは、何とも進歩しない動物である。人種、民族、宗教、イデオロギーを超えて助け合うということはできないものか。残念なことだが、「人類は滅亡に向けて進んでいる」という私の持論はますます確信になりつつある。
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