図書館で書架を眺める度に、一度も読んでいない作家がいかに多いことか、と思い知らされる。ついつい、好みやなじみの作家の作品ばかり読む傾向があるようだ。そこで、何冊か借りる中に初めての作家を加えようと思い、借りたのがこの1冊だ。
この著者の、「忘れ雪」「ある愛の詩」「あなたに逢えてよかった」が純愛3部作としてベストセラーになった、ということを知らなかった。読書好きを自認していたのがお恥ずかしい次第である。ハードボイルドやサスペンスが好きなので、純愛小説はあまり読んでいないことに気づかされた。
それだけに、「なじめないのでは」と思いながら読み始めた。ところが、ファッションライターの小野寺古都が、トップモデルの葉山海斗に密着取材するため訪れたのがスイスのチューリヒという物語の始まりに、すーっと入り込めた。というのも、40年ほど前になるが、初めての海外旅行がスイスだったからだ。カメラマンと2人で取材に行き、チューリヒで1週間ほど過ごし、登山鉄道に乗ってグリンデルワルトからアイガー北壁を見上げた日々の思い出が鮮明によみがえってきたのである。
露悪的に振る舞う海斗の本当の姿を探ろうとする古都。やがて似た者同士の2人はひかれあい、付き合い始める。幸せはつかの間、海斗が交通事故で脊髄を損傷し半身不随になる。死を望む海斗と生を望む古都の葛藤、2人の愛の行方は―というのがごくごく大ざっぱな粗筋である。
愛とは何か。大切な人の立場に立って思いやることが愛、と言葉ではいえるだろう。しかし、もしあなたの愛する人が、長年にわたり生きることを地獄に感じるような状況に陥っている時、「死を望むことを肯定するのが愛か」、「間違っていると否定するのが愛か」、という究極の選択を迫られたらどうするか。答えは簡単に出そうにない。
この小説はハッピーエンドになるのだが、海斗がなぜ死を思いとどまったのかが分からなくて、違和感が残った。年を取るにつれて純な気持ちを失ってしまったのか、純愛小説を読んでも涙を流すような感動を覚えなくなった。もっと若い時だったら、また違った思いになっただろう。それでも、たまには純愛小説もいいか、と思う。
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