2018年6月、陸上日本選手権である選手が注目を浴びる。7人制ラグビーの日本代表、神崎真守が円盤投に出場し、日本記録に迫る成績を残した。円盤投で東京オリンピックへの出場を手にすれば、前代未聞の「二刀流」アスリートの登場ということで世間は熱狂する。
神崎は、7人制ラグビーと円盤投という一見、共通項のなさそうな二つの競技でオリンピック出場を目指す。この二刀流にはスポーツ記者の間でも意見が割れていた。「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざもあり、どちらかに専念すればより高いレベルに行ける、というのが反対派の意見。一方、アスリートには無限の可能性があり、夢を与えてくれる選手がいてもいいのではないか、が賛成派の意見だ。
日本人は一つの道に打ち込むアスリートを好むようである。二刀流については、米大リーグで大谷選手が「野球の常識」を打ち破った。今でこそ二刀流は賞賛されているが、当初は支持派が少数だった。スポーツも仕事も分業化が進み、複数の道を両立させるのが難しい世の中だけに、二刀流が夢を与えてくれたのだろう。この神崎の才能に注目した新興スポーツ用品メーカーの営業マン、岩谷大吾がスポンサー契約を結ぶために動き出す。この両者の視点が物語を紡いでいく。
現在、スポーツビジネスは巨大なマーケットになっている。大谷の例では10年・1000億円の年俸以外に、スポンサー契約の収入が年間100億円もあるという。サッカーW杯やオリンピックなどの一大スポーツイベントはカネまみれといってもよい。7人制ラグビーと円盤投はマイナーなスポーツだけに、スポンサー契約といっても大した額ではないが、メジャーな競技になれば桁外れな金額になる。
この本では、スポーツビジネスの実態を垣間見ることができるが、天才アスリートの奮闘と苦悩が物語の中心である。ラグビーのハードな競技シーン、円盤投選手の心情などが見事に描かれている。スポーツファンとしてはその筆力に魅了された。
著者のスポーツ小説を最初に読んだのは、「チーム」だった。正月に繰り広げられる国民的なスポーツの「箱根駅伝」を題材にしている。私も毎年、テレビで観戦している箱根駅伝ファンなので、これまでのレースを思い浮かべながら興味深く読んだ。それから、スポーツ小説シリーズにはまってしまった。
そういえば、著者はスポーツ小説のほかに警察小説を得意としている。こちらも二刀流だ。
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