《石丸旋風》

過去最多の56人が立候補した七夕選挙で、現職の都知事・小池百合子氏(71)が3選を果たした。小池氏が291万8015票で圧勝。続いて前安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が165万8363票を集め、前参院議員の蓮舫氏(56)は128万3262票の3位に終わった。

人口約2万6千人の首長から、約1400万人の首都に乗り込んだ石丸氏。2位に敗れはしたが、ネットを駆使した選挙戦を展開して小池氏と蓮舫氏の間に割って入り、「石丸旋風」を巻き起こした。一躍“時の人”である。連日、テレビに引っ張りだことなっている。

「政治とカネ」の問題で政治不信が収まらない中、既成政党には逆風が吹きまくった。石丸氏は交流サイト(SNS)を通じた5千人を超えるボランティアに支えられ、「ユーチューブに街頭演説の動画を投稿、拡散してほしい」と呼びかけ、若い世代や無党派層からの支持を集めた。

一方、石丸氏が任期途中で辞任した安芸高田市長選も同日に行われ、反石丸色を前面に打ち出した新人が、石丸路線継承を掲げた候補を押さえて初当選した。新市長は「石丸氏は市議会や市民との対話も少なく、その手法は対立と分断を招いた」と断じた。

安芸高田市長時代の石丸氏は、議会と対立し、他者を寄せ付けない攻撃的でエキセントリックな姿勢が目立った。議会で「恥を知れ、恥を!」と怒りの言葉を市議に浴びせる場面も。市議を論破する切り抜き動画をユーユーブに投稿し続け、世間の注目を浴びた。市公式ユーチューブの登録者数は25万人と全国トップになり、ネット上で有名な市になった。対立と混乱を招くことで、登録者数を増やす「けんか戦略」だったともいえる。

小さな地方都市の議会は、古い体質が残っているのは否めない。その体質を打破しようとした石丸戦略を、全て否定しようとは思わない。だが、都知事選で石丸氏に集まった若者の視線や盛り上がりは、いささか怖いと思う。

ネットの影響力は、これから選挙戦でもどんどん増すだろう。「石丸旋風」はそのことをまざまざと示した。ただ、石丸氏の強烈なやり方や個性には、当然のことだが賛否両論が渦巻いている。兵庫県明石市の前市長で弁護士の泉房穂氏が、ネットでこんなことを言っていた。「都知事選と安芸高田市長選の結果を受けて、“実像”と“虚像”の見極めが始まるだろう」と。ネット社会の見極めは、私たちに突きつけられた試練である。

【午睡/2024.07.12】