《リモート民主主義》

兵庫県知事選の結果は「ショック」だった。兵庫県民ではないので外野席からながめていたのだが、パワハラ疑惑などの告発文書を巡り失職した斎藤元彦知事が、ここまで圧勝して再選されるとは思っていなかった。そして、交流サイト(SNS)の怖さに背筋が寒くなった。

選挙前までは、斎藤知事が再度出馬すること自体「厚顔無恥」とまで感じていた。県職員の調査では、かなりの人が知事のパワハラを認めていた。事実関係で言えば、パワハラがあったのは間違いないだろう。当然、斎藤氏が惨敗すると見ていた。ところが、斎藤陣営のSNSや動画配信を駆使した選挙戦によって、当初と終盤の情勢は一変した。まさに想定外である。

今回の知事選は、斎藤氏のパワハラ疑惑告発文書に対する対応や知事としての資質が争点だったはずである。しかし、X(旧ツイッター)やユーチューブで斎藤擁護と対立する県議会などへの批判が飛び交い、結論が出ていない斎藤氏のパワハラ疑惑を「なかった」と断言する投稿まであった。いつのまにか、「既得権益と闘う前知事」と、「改革に抵抗する県議会や新聞、テレビの既存メディア」という構図になってしまったのである。真偽や根拠が不明な情報が飛び交い、それを若者を中心に多くの有権者がそのまま信じてしまう怖さを実感する選挙になった。

神戸市に住む友人に、今回の知事選の感想を聞くと、「真偽も定かではないSNS情報があれだけ人心を扇動するとは、これから不安だ。特に、若者の判断が恐ろしい。戦争にのめり込んでいった時の民衆の心持を彷彿(ほうふつ)させる」と案じていた。同感である。

7月の東京都知事選で、前安芸高田市長の石丸伸二氏がSNSを駆使した選挙戦を展開して善戦したのは記憶に新しい。国民民主党が躍進した10月の衆院選や、兵庫知事選でも同じ。SNS上でエンターメント化して注目を浴びる現象が、選挙を席巻している。SNSや動画配信を駆使した選挙活動が有権者の投票行動に影響する現象を「リモート民主主義」という。

このリモート民主主義は若者層の投票率上昇の一役買ったが、不正確な情報が拡散し、市民同士が対立するリスクもはらんでいる。有権者は情報を吟味して正しく判断する「情報リテラシー」が求められる。といっても、これがなかなか難しい。ネット社会になり、予期せぬ出来事が次々と生まれる時代になった。「あーッ」と、ついため息が出てしまう、今日この頃である。

【午睡/2024.11.21】