父からの手紙
小杉健治著(光文社文庫 648円+税)

タイトルをみれば「家族小説」だろうと、誰でも思う。家族小説であるのは間違いないが、完ぺきにミステリー仕立てである。家族小説とミステリーを一度に読んだ感じである。

背広の仕立て職人だった阿久津伸吉が失踪する。母と離別して別の女性のもとに去ったという。しかし、残された娘・麻美子と息子・伸吾が成人するまで毎月20万円の教育費が振り込まれ、誕生日ごとに父からの手紙が届いた。10年が経ち、麻美子は24歳になり結婚式を控えていた。ところが、婚約者が死体となって発見され、弟の伸吾が容疑者として逮捕される。こんな不幸に襲われた状況を、父が傍観していられるのだろうか。そう思った麻美子は、父の行方を捜す決意をする。

一方、義姉のために殺人を犯した秋山圭一が、9年の刑期を終えて刑務所から出所する。圭一の兄は、灯油をかぶり、内側から鍵を掛けた密室で焼身自殺をした。兄には多額の生命保険がかけられていて、義姉が不倫相手と共謀して兄を死に追いやったのではないかと疑う。同じような疑問を抱いた悪徳刑事を圭一が殺してしまったのだ。圭一は自分の犯した犯罪の背景に疑問を抱いて、義姉を探し求める。

一見、関連性を持たない二つのストーリーが、たんたんと進行していく。そして、父親の失踪と圭一の殺人事件が少しずつリンクしていく。2本のレールがやがて1本のレールに収れんされていく過程が、まさにミステリーである。 1本のレールには、隠されていた母と離別して別の女性のもとに去ったという驚くべき真実が明らかにされる。その真相に「親と子の絆」が込められている。そこは、読んでのお楽しみだ。

ただ、2人が探していく場面で同じような描写が出てきて、いささか回りくどい印象を受けたのは私だけだろうか。そこは割り引いても、父からの手紙を読み返すラストシーンは、家族に対する父親の愛に泣けてくる。誰のために自分を犠牲にするのか。その結果は、必ずしも誰のためになるとは限らない。様々な「家族の絆」と「家族愛」を考えさせられた。

【ジャーナリスト 枡田勲 2019/9/2】