病巣
江上剛著(朝日文庫・800円+税)

東芝といえば、日本の一流企業だった。わが家の電気製品でいえば、テレビ、冷蔵庫、パソコンなど東芝製品が主流である。東芝ファンだっただけに、2015年に発覚した東芝の粉飾決算とその後の迷走に、驚くとともにショックを覚えた。

この作品の「日本を代表する総合電機メーカー・芝河電機」のモデルが東芝であることは、一目瞭然である。副題に「巨大電機産業が消滅する日」とある。 最大の誤算は、東芝が買収した米子会社の原発企業ウェスチングハウス(WH) の巨大損失である。売却後に福島原発事故が起きた不運はあったけれど、原子力事業に重点を移したトップの経営判断の誤りが、東芝の没落を招いた原因である。原発をなくす方向に、世界が進み始めているのだから。

そもそも、東芝の粉飾の始まりは、パソコン事業の「バイ・セル取引」といわれる。東芝が部品を仕入れてパソコン組み立て企業に渡す時、仕入れ価格を秘匿するために上乗せする「マスキング価格」がある。そのマスキング価格と実際の仕入れ価格の差を利益計上する「バイ・セル取引」で、パソコン事業を赤字から黒字に見せかけていた。

こうした不正が平然と行われるようになって、粉飾決算の泥沼に浸かってしまった。その見せかけの黒字による「成果」で、社長や会長にまで出世していく。社長が「チャレンジしろ」と叫びまくり、赤字を隠すためにルールを曲げた経営処理をする風土ができていく有様がリアルに描かれていく。

「鯛は頭から腐る」といわれる。それが現場にも伝わり、悪い方向に進んでしまう。ただ、こうした体質は経営トップだけのせいだけではない。トップの意向を忖度し、同調圧力をかけながら実行した役員や中間管理職がいることも忘れてはならない。小説の中での救いは、不正を絶たそうとする若手社員が内部告発をして立ち上がったことだ。

粉飾決算以降の東芝は、早期退職募集、医療機器や白物家電、パソコン事業の売却、メモリー事業の分社化と株式の一部売却などリストラで食いつないでいる。最近の企業では、自分だけが出世すればいいと考える「卑しい」リーダーが多くなっているのではないか。巨大企業もトップ次第で没落することを肝に銘じたい。

【ジャーナリスト 枡田勲 2020/11/12】