株式会社 廣文館
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広島在住のコラムニストによる “社会時評”コーナー! 月1回のペースで「読むことの楽しさ」をお届けします。 |
3年半の引きこもりから抜け出して、息子はアパート住まいを始めた。教会に近い1DKの部屋。そこから毎日、教会に通うのが日課になった。
新しい会堂が新築された教会は、会堂の掃除をはじめ、庭の花の水遣り、洗礼場の掃除、生け花の準備など手伝う仕事はいくらでもあった。夜明けとともに教会に行き、アパートで食事をとって、また教会の手伝いをする。まさに、「教会の子」として1年365日、通う日々が続いた。牧師は時に厳しくしつけ、時に優しく見守ってくれた。息子も、黙々と手伝いに精を出し、穏やかでさわやかな顔つきになっていく。それを見て、こちらが励まされるような気持ちになった。
その1年は、引きこもりから社会に出る準備期間のようだった。繁華街に出るのを怖がっていたのが、時々街中へも行けるようになりだした。牧師の指示で自動車教習所に通い、免許も取った。そして、アルバイトをしてみよう、ということになった。アルバイト案内のチラシから本屋の製本作業を見つけて、働き始めた。最初はしんどそうだったが、何とか2カ月続いた。
それから、コンビニのバイトに移った。客商売のバイトができるようになったのである。コンビニの同僚に高校中退者がいて、友達もできた。少しづつではあるが、社会の中に溶け込もうとしていた。私と妻は、見守ることに徹した。私たち自身、息子の引きこもりから多くのことを学んだ。不登校や中退者へのまなざしが変わってきたと自分でも思う。
息子と一緒に、大衆酒場で酒を飲むこともあった。いっぱいやりながら、何気ない世間話を息子とする「ささやかな幸せ」を、素直に喜ぶことができた。子育てに一度は失敗した。だが、やり直しがきくこともある。まだ、息子の将来が完全に開けたわけではないが、数年間、苦しみ悩んできたトンネルを、ようやくくぐり抜けた気持ちがした。
息子のフリーター生活が始まった。アルバイトをすることで、社会とのつながりが広がっていく。何かあるとその節々で、息子は牧師に相談し、教会で祈る。挫折した子が立ち直るには、いろんなきっかけやプロセスがあるだろう。息子の場合は、それが教会と牧師だった。小さいころから教会と慣れ親しんでいたことが息子を救ってくれた、と感謝している。 |
【午睡/2002.07.24】 |
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