90歳近い母が、わが家から車で2時間ほどの田舎で独り暮らしをしている。 帰れば喜ぶことは分かっているのだが、仕事の忙しさにかこつけて、時々しか田舎に帰らない。最近、田舎から住所を私の所に移した。月に一度は私の家に連れてきて、一週間ほど過ごす。そして、また田舎に帰る、という繰り返しをしている。
今のところ母は、物忘れは激しいが、頭はしっかりしている。足が悪くて、歩くのがしんどい状態だが、何とか買い物をして食事をし、風呂に入り、テレビを見て過ごしている。隣に独り暮らしのおばさんがいて、話し相手もいる。独り暮らしをしていると、食事を自分でしなければならない、という緊張感が「ぼけ」防止になっているのではないか、と思う。
親を引き取って一緒に暮らすことが、必ずしも親孝行ではない。住み慣れた家から離れ、子どもと一緒に暮らし始めて、何もすることがなくなり、ぼけてしまったという話をよく聞くからだ。
一週間ほどわが家で過ごすと、田舎へ帰りたがる。きままな独り暮らしが長いと、わが家で息子と妻と暮らすのは、やっぱり気を使うようだ。とはいっても、食事を作って食べるのはしんどい。田舎暮らしか、わが家で暮らすか、今、まさに境目にいる感じだ。
母は父が亡くなってから20年間、独り暮らしをしてきた。人付き合いが悪くて、老人会などにも一切出かけない。ホームヘルパーを頼んだら、と言うと、イヤだと言う。独りでいることが苦にならない性格と思う。だが、やはり歳になると、寝たきりになったらどうしようか、という不安にかられるようだ。
今のところ嫁姑の間は極めて良好と言っていい。妻は母がわが家に来ると、食事など一生懸命に世話をしている。とはいっても、精一杯尽くそうとするので、疲れるのがわかる。「日ごろと同じようにして無理をするな」と言うのだが、なかなかそうはいかない。いずれ、母が動くのが難しくなると、妻が世話をするようになる。介護に直面するわけだ。さて、どんなことになるやら。とにかく、ぶち当たっていくしかない。
母を見ていると、老いるということは大変なことだ、とつくづく思う。いずれ、自分もたどる道だ。夫婦そろって、元気に老いる。これがどんなに難しいことか。
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