荒涼たるネゲブ砂漠をひた走ると、イスラエル最南端の都市エイラットに着いた。イスラエルで唯一、紅海に面したリゾート地。ヨルダンとエジプトに接した国境の町でもある。ここからシナイ山登山を目的に、エジプト領に入国した。
モーセが神から十戒を授かったとされる場所が、エジプト領シナイ半島にあるシナイ山(標高2285メートル)だ。聖書の出エジプト記20章3節から17節にある「モーセの十戒」を紹介する。1、主が唯一の神である 2、偶像を崇拝してはならぬ 3、神の名をみだりに唱えてはならない 4、安息日をまもること 5、父母を敬え 6、殺してはならない 7、姦淫してはならない 8、盗んではならない 9、偽証してはならない 10、隣人のものを欲してはならない
広島からの一行23人は午前2時、聖カタリーナ修道院前から登り始めた。この修道院は世界最古の修道院とされ、世界遺産として有名である。暗闇。手にした懐中電灯が頼りである。見上げると今にも降ってきそうな満天の星だった。
スニーカーにリュック姿で山道を登る。世界中からシナイ山頂を目指す人々が行列をなす。わがメンバーは中学生から70歳を超える人まで幅広い年代。途中、「ラクダ、ラクダ」とベドウイン族の男が客引きの声を掛ける。ラクダに乗ると8合目辺りまで行ける。1人15ドル。足に自信のない8人ほどがラクダを利用した。ラクダの背に乗った山道は「怖かった」という。それでも、まさに「楽だ」である。8合目の小屋で待ち合わせて、最後の階段約800段を這うように頂上を目指す。
6時ごろ、頂上にたどり着いた。中高校生の若者を除いて、みんな息も絶え絶えの様子。私も太ももが痙攣を起こすほどきつかったが、頂上から眺める日の出に疲れが吹っ飛んだ。遠くの岩山が赤く染まっている。それも深かーい赤色。神秘な世界が広がっていた。
頂上は肩が触れ合うほどの混みよう。日本人の姿もちらほら見かけた。日出ずる国、日本からはるばるやってきた23人のメンバーは、1人の脱落者もいない。快挙である。風が冷たくて震え上がる。この日はちょうど土曜日の安息日。みんなで霊讃歌を歌い、祈りを捧げた。
シナイ山は草木一本もない岩山である。睡眠不足と疲労困ぱいで体は重かったが、心はなんとも清々しかった。シナイ山登山は一生忘れない記憶として刻み込まれた。 |