モーセの十戒で知られるシナイ山に登頂したのは、日の出前。登るときは真っ暗闇だった道を、ゆっくりと降りて行った。草木一つもない荒涼たる風景である。
麓にある聖カテリーナ修道院に着いたときは、くたくたに疲れていた。世界最古の修道院を見学したが、すごい人、人。じっくり見る余裕もなく、バスに乗った。これから死海まで約380キロもある。途中、エジプトからイスラエルに再入国。荷物検査を受けた人もあって、入国手続きに時間を要した。日差しが強くて暑い。水を補給しないと脱水症状になりそうだった。
バスの中でウトリ、ウトリ。死海の南にあるリゾート地、エン・ボケックのホテルに着いた時は、暗くなっていた。死海は、アラビア半島の北西部に位置し、西側にイスラエル、東側をヨルダンに接する。幅17キロ、長さ60キロ、海抜マイナス418メートル。世界で最も低い場所に位置する。ヨルダン川が流れ込み、流れ出る川のない湖である。
朝、水着になってホテルから浜に出た。塩分濃度は30%。海水の10倍もある。水の中に入ると、プカーっと体が浮く。日本から用意してきた新聞を広げて、読む姿を写真に撮ってもらった。沈もうと思っても沈まないのだから、何とも不思議である。「カナヅチの方は是非、死海で浮遊体験を」とお勧めしたい。
死海は名の通り、生物を寄せ付けない死の海だが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、臭素などミネラルが豊富に含まれている。そのミネラルが健康や美容に良いという。ガイドさんの説明によれば「死海の空気を吸うと10年若返る」そうだ。癒しの空間にいると、さもありなんという気持ちになる。ただ、死海につかったのは1時間ほど。半日の滞在では、残念ながら若返るとまでにはいきそうになかった。「また死海に来てゆっくりしたい」と思ったのは私だけではなかろう。
死海のミネラルは、化学肥料の生産などイスラエルの一大産業になっている。また化粧品、石けんなどにも利用され、土産品になっている。心配なのは湖面の低下が進んでいることだ。原因はヨルダン川上流での大規模な灌漑用水の利用によるものだと考えられている。旅メンバーを率いる牧師は20年ぶりの再訪だったが、「水位の低下で昔と風景が違っている」と話していた。
名残惜しい死海を後にして、近くにある「マサダ要塞」へ。標高400メートル。断崖絶壁の山頂から眼下に荒涼とした原野、その向こうに死海が見渡せた。 |