俳優のメル・ギブソンが監督した映画「パッション」をご覧になっただろうか。その凄惨さゆえに、ショック死する人が出たといわれているほど。イバラの冠が額に食い込む。むちに打たれた体はズタズタになる。思わず目をそむけそうになるシーンが続く。重い十字架を背負い、ゴルゴダの丘に登っていく道がヴィア・ドロローサ(悲しみの道)である。
紀元前1世紀のエルサレム。12使徒の1人であるユダの裏切りにあって捕らえられたイエスは、ヴィア・ドロローサを歩いた。私たち巡礼団もその道をたどった。
全長1キロ。ゴルゴダの聖墳墓教会まで14のステーション(留)があり、それぞれのステーションでイエスの身に起こった事柄をしのぶことができる。第1留はイエスが死刑の判決を受けたアントニア要塞があったといわれるところ。第2留が「むち打ちの教会」。イエスが十字架の重みに耐えかねてつまずいた場所が第3留。マリアがイエスを見たとされる第4留。壁に手の跡が残っているところ、小聖堂になっているところ、教会になっているところ。パッションの場面が思い出される。
ヴィア・ドロローサの周辺は、当時も今も繁華街である。アラブ系住民の店が軒を連ねる。第14留が終点。ゴルゴダの丘と考えられているところに、イエスの墓が納められている聖墳墓教会がある。カトリック、アルメニア、コプト、ギリシャ正教などの異なった各派が入り乱れて区分管理する何とも変わった教会だ。
ヴィア・ドロローサからイエスゆかりの地や教会も訪れた。本当のゴルゴダの丘ではないか、とも言われる「園の墓」、オリーブの古木が茂る「ゲッセマネの園」、イエスが最後の夜を苦悶しつつ祈って過ごした「万国民の教会」、イエスが捕らえられ地下の牢獄で一晩過ごした「鶏鳴教会」、イエスが弟子に請われて主の祈りを教えたと言われる「主の祈りの教会」、「マリアの墓の教会」…。
2000年の時を超え、イエスのたどった道を歩きながら、不思議な思いに包まれたのは私だけでないだろう。エルサレムを訪れて1年たつのに、いまだに鮮明によみがえってくる。忘れられない街である。 |