♪ポーニョ、ポニーョ、ポニョ、魚の子…
このフレーズを思わず口ずさんでいる。宮崎駿監督の新作「崖の上のポニョ」が大ヒット中だ。夏休みの1日、4歳の男の子を連れて、映画館に足を運んだ。アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフとした物語。童心にどっぷりと浸ることができた。
まずは、ポニョのあどけない表情、舌足らずの口調が何とも愛らしい。5歳の宗介、その母親リサもいい感じで描かれている。パステルのような手書きの味が、今までの宮崎アニメとひと味違う。これが、ほっとするような気持ちにさせてくれる。
悪人は1人も登場しない。小さな子どもにも十分楽しめる夏休みにぴったりの作品だ。1時間41分。連れて行った男の子が、時々「ポニョ」と言いながら、食い入るように見つめていた。
崖の上の一軒家に住む宗介の家族。そこから眺める港町の風景は、福山市の「鞆の浦」が土台になっている。宮崎監督は鞆の海を見渡す高台の家で2カ月過ごし、街並を歩き、構想を練ったという。
常夜灯、番所、雁木、焚場(たでば)など江戸時代からの港の設備がそのまま残る鞆の伝統的な街並みは、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が「世界遺産に匹敵する」と折り紙をつけている。その鞆の港が今、ピンチに立たされている。埋埋め立て架橋計画で、景観が壊れてしまいそうなのだ。
利便性を求める地元住民の気持ちも分かる。だが、一度壊れたものは二度とよみがえらない。山側トンネル案など、景観を残して街を保存する方法をなぜとらないのか。舞台の鞆の浦について宮崎監督は、公式的には何も触れていない。しかし、素晴らしい景観を次の世代に残してほしいと願っているに違いない。 |