イスラム原理主義ハマスがイスラエルに発射したロケット弾に始まり、イスラエル軍の空爆、そしてガザ侵攻の地上戦という争いが、何とか停戦になった。オバマ米大統領の就任に合わせて、イスラエル軍が撤退をした。
今回の紛争でパレスチナ自治区ガザでは千人以上の犠牲者が出ている。それも半数以上が子どもやお年寄りなど、紛争に関係のない住民である。イスラエルに世界の非難が集まっているのも仕方がない。
イスラエルの強硬な姿勢がなぜなのかについては、この欄の「イスラエルの旅」で報告した。イスラエルを旅してその歴史を肌で感じると、理解できる面がある。それでも「なぜそこまでするのか」と思う人は多いだろう。そう思う方は、「イスラエルの旅D」を読んでいただきたい。そこに、旧約聖書に出てくる「マサダの戦い」について記した。紀元70年、ローマ軍によってエルサレムが陥落。ユダヤ人967人がマサダ要塞に立てこもって抵抗し、力尽きてほとんどが自害する悲劇の戦いである。
国が滅びてユダヤ民族は世界に離散し、1900年後に悲願のイスラエルを建国した。建国の合言葉が「マサダは二度と陥落しない」である。四面を敵に囲まれたユダヤ人は「背中からあいくちを突きつけられた」状態の強迫観念を持っている。これを「マサダ・コンプレックス」と呼ぶ。攻撃は最善の自衛手段と考え、相手の戦闘能力を徹底的につぶし、戦意を喪失させないと安心できないのも、このマサダ・コンプレックスが背景にある。イスラエル国防軍の入隊宣誓式が年に何度かマサダ頂上で行われ、新兵たちは忠誠の誓いをする。暗闇にヘブライ語の火文字「マサダは二度と落とされない」が燃え上がる。
ユダヤ人の歴史を知ると、イスラエルに対する認識が複眼的になる。オバマ大統領もハマスのロケット攻撃について触れて、イスラエルに理解を示していた。もちろん、だからといって無垢な子どもたちを無差別に殺戮してもいいわけではない。ただ、一方的にイスラエルを非難しても、問題は解決しない。
実は、今年の正月に再びイスラエルを旅する計画があった。計画の後にガザ紛争が起きたのだが、旅が実現していたら緊迫したものになっていただろう。旅の計画は1年先に延期することになった。国の状況がどう変わっているのか興味津々である。再訪するのを楽しみにしている。 |