シナイ山の麓の宿泊地で仮眠し、午前1時に起床。一行27人は山登りの支度をして午前2時、出発した。
シナイ山の登山口にあるのが、聖カタリーナ修道院だ。この修道院は世界最古の修道院とされ、世界遺産として有名である。暗闇の向こうに修道院の石壁がそびえ立つ。見上げると今にも降ってきそうな満天の星だった。
3年前は一行のほとんどが歩いて登ったが、今回はかなりのメンバーが8合目までラクダの世話になった。私も初めてラクダに乗った。3年前は15ドルだったのが、20ドルに値上がりしていた。ラクダを操るのはベドウイン族の男。足を折りたたんでいるフタコブラクダの背にまたがる。立ち上がると、思ったより高い。振り落とされないよう「こぶ」にセットした取っ手をしっかりと握る。馬の鞍についている「あぶみ」もなくて、足がぶらぶらして不安定で怖い。「ラクダは楽だ」というのがベドウイン族の客引き文句だが、どうも看板に偽りありだ。
暗闇の山道をラクダが登る。前後に揺れる。乗り心地はすこぶる悪くて、落とされないよう必死で取っ手を握ることに神経を集中した。それでも、少しずつ慣れてくると、星空を眺める余裕も出てきた。それにしてもラクダは賢い。足を踏み外すと転落してしまうがけっぷちを黙々と歩く。どのくらい時間がたったのだろうか。1時間半くらいは乗っていたような気がする。8合目に着いて、背から降りた。歩くのよりは楽だったかもしれないが、別の意味で疲れた。腕や内股が筋肉痛だった。
8合目からは頂上まで、切り立った岩の階段約800段が待ち構えている。一行のうち足に自信のない7人は、小屋で待機することになった。コーヒーを飲みながら待つこと1時間くらい。日の出が始まった。近くの岩山が赤く染まる。厳粛な気持ちで、神秘な世界を眺め続けた。神の存在を感じさせる風景だった。
頂上まで登った3年前とはまた違った感慨があった。モーセが神から十戒を授かったシナイ山を記憶に焼付けた。頂上から帰ってきた一行と合流し、下山した。麓の宿泊施設で着替え、バスに乗ってモーセに率いられて40年間もさまよった荒野をたどって、イスラエルに向かった。 |