シナイ山を下りた一行は、エジプトとイスラエルの国境で入国手続きを行った。そこから向かったのは死海地方。死海沿岸のホテルは、ヨーロッパ辺りからやってくるリゾート客でにぎわっていた。
死海は本当に不思議な湖である。海面下400メートル。地球上で最も低い場所にある。塩分は30%。普通の海のおよそ10倍だ。天然のミネラル豊富な塩やドロは美容、健康の基として世界に輸出されている。クレオパトラの美の秘訣は、死海の塩とドロだった、とも言われている。
臭素などを含んだ空気が漂い、「癒し」の空間が広がる。朝早く、ホテルのプライベートビーチに出て、水の中に入った。プカリと浮かぶ。というより、足を水の底に着けようとしても、できないほどの浮力である。少し肌寒いが、年末なのに海水浴ができるなんて、やっぱり不思議な湖だ。
浮遊体験を楽しんでいると、突然、轟音が響いた。上空を戦闘機が飛んでいった。ガザ地区の紛争で治安が心配されたが、平穏な日々が続いていたので、つい「ここは中東のイスラエルだ」ということを忘れていた。早々に砂浜に上がった。あまり長く塩水につかっていると脱水症状になるからだ。
死海周辺にいると、心が休まる。一週間ぐらいのんびりとしたい気分である。だが、観光ではない。巡礼の旅である。つかの間の安らぎを楽しんで、エルサレムに向かった。
途中、モーセが終焉の地、ヨルダンのモボ山から眺めたというエリコを訪れた。アラブ人の住むオアシスの街である。エルサレムのホテルに着いたのは、夕方だった。巡礼の旅は佳境に入る。 |