それにしても、とんでもない法案である。もし、この法案が成立したら、後になって国民が悔やむだろう。でもその時は遅いのだ。
そう、今国会で審議中の「特定秘密保護法案」である。ジャーナリズムの最も重要な役目は「権力の監視」だろう。メディアが権力の監視をやめてしまえば、ジャーナリズムを語る資格はない。ところが、その法案はジャーナリズムの本義を壊してしまう可能性がある。
防衛、外交、スパイ活動の防止、テロ防止の4分野で、漏れれば国の安全保障に支障をきたす恐れがある情報を閣僚らが「特定秘密」に指定。漏らした者を「10年以下の懲役」に科すとしている。そして、秘密を聞き出したジャーナリストまでも「教唆した者」として罪に問われる。
問題は、何が特定秘密に指定されているのか分からず、指定が妥当かどうかの検証ができないことだ。秘密指定の期限も、内閣の承認さえあれば30年を超えることも可能になる。
1972年の沖縄返還をめぐる日米密約を取り上げたノンフィクション作家の澤地久枝さんが、こんなことを言っている。「一般の人には、自分が特定秘密に触れているのが分からない。文章を書く人が取材した後、これは特定秘密だと言われたらアウト。特定秘密の秘密とは何ですかと聞いても『それは秘密です』なんて、こんなばかな話はない」。冗談ではない。「憲法を吹き飛ばす悪法」と憂えるのも当然だ。
権力の不正や腐敗に関する情報は、ほとんど権力の内部からの情報である。ジャーナリズムは、正義の内部告発者によって機能しているともいえる。この法案によって公務員の良心を萎縮させ、権力者にとって都合の悪い情報は隠蔽されてしまうだろう。
共同通信の世論調査によれば、この法案に反対が50・6%、賛成は35・9%だった。慎重審議を求める意見は82・7%にも上る。それでも、米国の要請を受けて政府は法案制定を急ごうとしている。政府の情報は国民の共通財産なのか、お上の専有物なのか。
「権力は腐敗する。絶対権力は絶対に腐敗する」。だから、権力に対するチェック機能が不可欠である。ジャーナリズムの危機が迫っている。
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