「しびれた」というのが率直な感想である。米大リーグから8年ぶりに復帰した黒田博樹投手の会見だ。私は大のカープファンだから当然だが、カープファンならずとも惚れてしまうだろう。
「広島という小さな町に待ってくれる人がいる。ファンのいろいろな声を聞き、これでよかったかなという気持ちになった」。年俸20億円を超すメジャー数球団のオファーを断って、約5分の1の推定年俸で広島に帰ることを決断した理由のひとつである。2006年、メジャーに快く送り出してくれた広島のファンに恩返ししたい、という誠実さがにじみ出ていた。
カープがセ・リーグで優勝したのは1991年。あれから25年、12球団で最も優勝から遠ざかっているチームである。「今年こそはマエケン(前田健太投手)と二枚看板で優勝だ」とファンが盛り上がるの当たり前だろう。だが、黒田投手は「優勝する」とは一度も口にしなかった。そして「不安しかない。皆さんが期待する投球ができるか」とも。メジャーで5年連続10勝以上を記録した投手が、この謙虚さである。
昨季は「カープ女子」が流行語になった。全国に赤ヘル応援団が広がっている。2年連続3位でクライマックスシリーズに進出したが、優勝の壁は大きい。そこで今回の黒田投手復帰である。今年優勝できなければ、しばらくは難しいのではないかと誰もが思う。
私は1975年、昭和50年の10月15日、カープ初優勝の瞬間を東京の後楽園球場(現在の東京ドーム)3塁側スタンドでまぶたに刻んだ。胸が熱くなったあの記憶は、40年たった今でも生々しく思い出す。若い赤ヘルファンは、優勝の感激を知らないのだからかわいそうだ。夢のような感激をぜひ味わってもらいたいと願う。
イスラム国のテロ事件など、心が塞ぐような出来事が相次ぐ世の中。久々に心が洗われた。
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