暖かい日が続くと、あっという間に花びらが開く。広島市の平和公園では桜が満開になった。そして、あっという間に散っていく。街に出て繁華街を歩くと、行き交う人たちが何だかいつもと違う感じに見える。浮かれているというか、明るいのである。日本人にとって、桜はやはり特別の花なのだと思う。
世界をみれば、イスラム国のテロ事件が世界のあちこちに広がっている。いったいこれから先、どうなっていくのだろう、という不安が募るばかりである。人間は何て愚かな動物なのだろうか。宗教、民族、資源、エネルギーなどなどさまざまな要因で争いが絶えない。かつて地球を支配していた動物たちは、次々と滅亡していった。人類も滅亡への道をひた走っているとしか思えない。
だからというわけではないが、せめて花の下でしばしこの世の憂さを忘れたい。この時期になると、いつも思い浮かべる詩がある。唐代の詩人、于武陵の「勧酒」を井伏鱒二が訳したものだ。
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
カタカナが何だかぴったしとくる。今年も友人と花見をした。「お互いが酒を酌み交わせるのはいつまでだろう。このひと時を大事にしたい」と思いながら、しみじみと飲んだ。年を重ねると、「さよならだけが人生だ」の言葉が身に染みる。
薄いピンク色をした桜の花びらがはらはらと散るさまは、とりわけ至福の時である。今年も生きてサクラを見ることができた。「サヨナラ」の時はもうそんなに長くない、とそんな想いに浸りながら…
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