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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のコラムニストによる “社会時評”コーナー! 月1回のペースで「読むことの楽しさ」をお届けします。

《モヒカン故郷に帰る》

久しぶりに映画館に足を運んだ。それも夫婦で観に行った。何年ぶりだろうか。映画は好きだが、最近は茶の間のテレビで楽しむくらいだった。ところが、映画のロケーションが故郷の島であり、多くの知り合いがエキストラとして出演しているとあれば、観ないわけにはいかない、という訳である。

タイトルは「モヒカン故郷に帰る」。売れないバンドマン・永吉が妊娠した恋人を連れて、7年ぶりに広島に帰郷する。その舞台が、瀬戸内海に浮かぶ島。そこで、頑固な父・治のがんが発覚する。永吉が、父の最期を幸福でいっぱいにしたいと奮闘するホームコメディだ。

ロケ地は呉市の大崎下島、上蒲刈島、下蒲刈島、豊島。主人公の永吉は松田龍平さん、父親役が柄本明さん、主人公の恋人役に前田敦子さん。親子役2人の広島弁の掛け合いが面白い。治は、広島出身のロック歌手・矢沢永吉さんの大ファンで息子の名前に「永吉」と付けるほど。母親は大の広島カープファンで、ユニフォーム姿で応援する。何気ない普通の日常を描いているが、思わず笑ってしまう、そして涙をさそう。名優・柄本さんの父親役がなんともいい。

ロケの島々は私の故郷でもあるので、風景や家屋のたたずまいに「あっ、あそこだ」とか、俳優以外のエキストラに「あっ、〇○が出ている」と人探しの方に注意がいってしまう。入院した病院の屋上にいる治が、隣接する学校の屋上にいる吹奏楽部員に向かって指揮棒を振る素晴らしいシーンは、実際にある病院と学校が隣接するところだ。エキストラで出演した知人が「ロケの場所やエキストラの顔ばかりに神経がいって、映画全体をじっくり楽しむには3回観んといけん」と笑っていた。

故郷の島々を映画で見ると、不思議な感じになる。それにしても、久しぶりの映画館はなかなかよかった。映画の醍醐味は、やはり映画館だと思う。一つ付け加えておくと、沖田修一監督のこの映画は、イタリアの「ウディネファーイースト映画祭」で2冠を受賞した。もう一度観に行って、こんどはじっくりと楽しみたいと思うが、全国より先行上映された広島では既に打ち切りになっている。

【午睡/2016.5.11】


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