ある意味では予想通りだったかもしれない。テレビで佐川宣寿・前理財局長の証人喚問を聞いた。国民の多くの人がイライラしたに違いない。森友学園を巡る決裁文書の改ざん問題で「いつ、誰が、何のために行ったのか」という知りたいことが全く解明できなかったからだ。佐川氏は「刑事訴追の恐れがあるから答弁を差し控えさせてもらいます」を連発した。
与党・自民党の質問は、「安倍首相や明恵夫人、官邸は関与していない」という佐川氏の答弁を引き出すのが目的みたい。いったい証人喚問って何なのだろう、とさえ思う。決裁文書に明恵夫人の名前が出ていたのが、なぜ改ざんで消えてしまったのか。一連の問題は「明恵夫人案件」そのものではないか。それを隠蔽しようとするから、無理が生じるのである。
1年前、当時の佐川理財局長は「(森友学園との)交渉記録は残っていない」という答弁を繰り返した。その少し前に、安倍首相は「私や妻が関係していたならば、総理大臣も国会議員も辞める」と発言した。この首相発言を機に、文書の改ざんが始まった可能性が高い。“神風”が吹いて学校用地の8億円値引きにつながっていった、とみるのが妥当だろう。
内閣人事局が霞が関の官僚幹部の人事権を握ってから、官僚が首相に逆らうことは出世の道が閉ざされることになった。逆らえば、左遷は当たり前、辞めてからも個人攻撃で社会的に葬られる恐れがあるのだ。官邸を批判した前川喜平・前文部科学事務次官への、露骨な個人攻撃を見れば明らかだ。
それにしても、日本の公文書管理はあまりにもお粗末である。政府や省庁にとって都合が悪い資料は隠蔽したり破棄したりする例が後を絶たない。さらに、今回は改ざんという犯罪行為まで行われた。沖縄返還時に日米密約があったことを暴露した西山太吉さん(当時、毎日新聞記者)が逮捕されて有罪判決を受けた、いわゆる「西山事件」では、米側が30年を経過して公文書を公開。日米密約が証明されたにもかかわらず、日本政府は「密約はなかった」と言い続け、あげくは当時の外交文書を大量に破棄してしまったのである。いろいろ問題はあるが、米国は公文書をしっかりと保存し、時期が来れば公開する。これこそ、民主主義の基本である。それに対し、日本の状況は目を覆うばかりだ。
このところの世論調査で内閣支持率が急降下した。世論は「安倍首相が信用できない」と思っているのである。「総理大臣も国会議員も辞める」といった発言通り、この際、混乱の責任をとって首相をお辞めになってはいかがですか。といっても、辞めるわけないか。
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