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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のコラムニストによる “社会時評”コーナー! 月1回のペースで「読むことの楽しさ」をお届けします。

《不便益》

こんなことまでスマホでできるの、と思う。スマホの便利さ、を否定する人はいないだろう。そのほかにも、24時間営業のコンビニや飲食店が当たり前になり、ネット通販を利用すればほとんどの品がすぐに届く。本当に便利な世の中になった。だが、便利さと引き換えに、失われているものもあるのではないか。

中国新聞オピニオンのページに、「不便益」というテーマに取り組んでいる川上浩司・京都大特定教授のインタインタビュー記事が出ていた。便利さの追求から一歩引き、あえて不便のいいところに着目する研究という。例えば、カーナビは目的地までの経路や所要時間まで親切に教えてくれる。ただ、道を覚えられなくなったと感じる人は多い。旅であれば、道に迷ったり予期せぬ場所や店に出くわしたりする体験が醍醐味の一つとも言える。そこで、ナビにあえて不便さを持ち込んだ「かすれるナビ」を開発した。通った道が地図からかすれていって、3回通ると真っ白になる仕掛けだ。

便利さを否定しているのではない。一見不便に見えることに、ちょっとだけ暮らしを豊かにするヒントがあるかもしれない。それを見つけ出していきたい、という研究だ。スマホやパソコンばかり使っていると、簡単な漢字さえ書き方を忘れることがある。確かに、私も漢字が思い出せないことが多くて困っている。便利の害といえる。

川上教授は、「便利さも不便さも、人それぞれ感じ方が違う。不便益という考え方は選択肢の一つ」という。オートマティック車は便利だが、マニュアル車の方が運転している実感があって楽しいという人もいる。鉛筆削り器を使うより、ナイフを使った方が達成感を得られることもある。不便な道具を使うことでもたらされるプラス効果を、「不便益」としている。

この記事を読んで、考えさせられた。小さいころ携帯電話のない時代に育った身としては、便利さの半面、せわしない世の中になったと思う。手間がかかることを、もっと楽しむゆとりがあってもいいのでは…。こんなことを考えていたら、先日、ソフトバンクの大規模な通信障害が起きて、全国でさまざまな混乱が起きた。スマホ依存社会は、意外ともろいことが露呈した。

実は、携帯電話を手放そうかと思っている。家に電話はあるので、最低限の連絡は可能だ。不便になるが、わずらわしさも少し減るのではないか。今の時代に携帯電話がないと、どんなことが起こるのか、試してみたい。

【午睡/2018.12.10】


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