前回のこの欄で、感染症の世界的流行である「パンデミック」について書いた。それから、さらに新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界的な混乱状態になっている。その中に、「心配していたがやっぱり起きたか」と思ったのが、「インフォデミック」だ。誤った情報の爆発的増加を示す造語である。
インターネット上で誤情報やデマが広がっている。ツイッターやラインなどのSNS(会員制交流サイト)や通販サイトなど多様なネットを通じて情報が増幅し、国境を越えて拡散された。オイルショック時のように、全国でトイレットペーパーの買い占め騒ぎが起き、根拠不明のウイルス撃退法などが流布されている。
トイレットペーパーが不足し始めたのは、「中国に生産を依存」「品薄のマスクと原材料が同じ」というツイッター投稿が発端だったという。実際は、国内生産が98%で、マスクの原料は主に化学繊維でツイッターの情報はデマだった。政府がデマだと打ち消し、デマだと分かっても、ドラッグストアやスーパーの棚から商品が消えた写真がSNSに投稿されると、買占め行為に走る人々が長い列をつくることになった。
「26度のお湯を飲むとウイルスが死滅する」「ニンニクを食べると感染予防に効果」など感染予防に関するデマも拡散している。それも、世界中にあっという間に広がってしまい、後からデマだと情報を打ち消しても、なかなか収まらない。グローバルなネットの怖さを改めて思い知らされる。
小、中、高の臨時休校をはじめ、イベントやスポーツ大会の中止や延期、入国制限の厳格化などドタバタ騒ぎは拡大する一方だ。プロ野球のオープン戦は無観客試合、選抜高校野球も無観客で行われることになった。それでも、「こんな時期にまだ試合をするのか」という恨み節があるという。
人心の荒廃が心配だ。電車の中で咳をしたことが原因でけんかが始まった、とニュースで報道された。新型肺炎でイライラする気持ちは分かるが、こういう時こそ相手をいたわりあう心を持ちたい。世界的な危機を、冷静に、心穏やかに克服していくことが「人類の叡知」ではないか。
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