「やられたらやり返す。倍返しだ」。堺雅人主演のTBSドラマ「半沢直樹」での決め台詞である。コロナ禍で鬱々の日々の中で、スカッとした方が多かっただろう。最終回の視聴率は30%を超え、社会現象にまでなった。
脇を固める俳優陣に、香川照之(市川中車)、市川猿之助、片岡愛之助、尾上松也という歌舞伎役者をそろえたのが、盛り上がりの一因だと思う。「さあ、さあ、さあ」、「わびろ、わびろ、わびろ、半沢!」といった歌舞伎で使われる技法も出てくる。いささか大仰にも見えるが、それがまた効果的だった。決め台詞も「倍返し」だけでなく、「お・し・ま・いDETH(です)!」「3人まとめて1000倍返しだ!」などと叫ぶ名シーンが満杯で、楽しませてくれた。
原作者の池井戸潤氏の作品は、勤務経験のある銀行裏側をシリアスに描いたり、「下町ロケット」「空飛ぶタイヤ」など実際にあった話を取り込んだ社会派エンターテイメントの作品が多い。今回の「半沢直樹」も、権勢を誇る与党の箕部幹事長の裏金を追及して不正を暴く筋立てになっている。
ドラマで不正の証拠を提示すると、箕部幹事長は「記憶にない」と返す。半沢が「記憶にないで済むのは国会答弁だけだ。そんなバカげた言い訳は、一般社会では通用しない」と一蹴するシーンがある。柄本明演じる箕部幹事長のモデルに、自民党の二階俊博幹事長? を重ねて見た人が結構いたのではないか。二階幹事長は7年8カ月の安倍長期政権で、党のカネと人事を握って「陰のキングメーカー」になっているからだ。
政治不信は世を覆っている。その要因の一つの例が、公選法違反罪に問われている河井克行・案里夫妻の大規模買収事件だ。自民党から河井氏に1億5千万円の巨額な政治資金が配られたのも、二階幹事長や菅官房長官(当時)が関係していることを忘れてはならない。政界の不正を追及する「半沢直樹」のドラマを見て喝さいを叫ぶ一方で、菅政権の支持率は7割を超える。そのギャップに、いったいどうなってるのかと情けなく思う。みなさん、ストレス発散で終わっていいのですか。
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