菅政権が発足してから1カ月を過ぎた。7年8カ月という安倍長期政権からどう変わるのか、じっと目を凝らしてきた。ずっと女房役の官房長官を務め、「安倍政権を引き継いだ」菅義偉首相だけに、大きく変わる要素はないと思っていた。閣僚の多くが留任したこともあり、滑り出しを見ると予想通りである。
その中で特筆されるのは、日本学術会議の会員候補6人を首相が任命拒否した問題だろう。安保法制や共謀罪法に反対してきた学者を排除する露骨な人事である。理由を説明すべきという声が内外から上がると、首相は「総合的・俯瞰的(ふかんてき)」と意味不明の呪文を唱え続けている。森友・加計問題でも明らかになった、「説明しない政府の姿勢」を安倍政権から継承しているようだ。
その姿勢に対する批判が強まってくると、自民党は急きょ学術会議の在り方を検討するとして、河野太郎行政改革担当相は行革の検討対象とする考えを示した。学術会議の在り方については、議論すべきだと思う。しかし、いま問われているのは任命拒否した理由をきっちり説明することである。まさに、これまで安倍政権がよくとってきた「論点ずらし」そのものである。
二世、三世議員が幅を利かす政界で、「叩き上げ」「苦労人」というイメージで期待を集め、高い内閣支持率を集めてスタートした菅政権。政策に反対したり批判する者は排除する、という“強権政治”が早くも顔を出してきた。「衣の下に鎧」というが、本心が見えたということだろう。
菅首相は「政策に反対する者は異動」と明言した。政治主導を否定するつもりはない。だが、一つ間違えば政治主導も“恐怖人事”で霞が関を支配することになる。官邸が官僚幹部の人事権を握り、官僚の忖度によって政治がゆがめられた森友・加計問題を忘れてはならない。
論理異論・反論が言える風通しのいい政権になってほしい、と願うのはないものねだりだろうか。今月の共同通信世論調査によると、内閣支持率は学術会議問題の対応で9月より5ポイント下がった。国民の目は節穴ではない、と数字は示している。
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