その時の印象を忘れることができない、と知人が語る。広島平和公園に来た若かりし石原慎太郎さんを、見たことがあるというのだ。「すらりとした長身。一団の中で、1人際立って目立っていた。とにかく、かっこよかった」と。
一橋大在学中に芥川賞を受賞。その小説「太陽の季節」で弟の石原裕次郎がデビューし、映画に登場するやんちゃな若者が「太陽族」と呼ばれて社会現象になった。慎太郎さん自身も、その髪型が「慎太郎刈り」といわれてブームになるほど。とにかく、かっこいいのである。
小説家のまま政治家に身を投じ、参議院議員、衆議院議員、そして東京都知事を務めた。外交や防衛問題でタカ派の論陣を張って存在感を示し、しばしば物議を醸す発言で世間を騒がせた。都知事時代にディーゼル車の排ガス規制など先進的な取り組みを推進した一方、開業した新銀行東京はずさん融資で経営難に陥った。
毀誉褒貶相半ばする人だったが、この人の真骨頂は、何と言っても歯に衣着せぬ物言いだろう。晩年、「死ぬまで言いたいことを言って、やりたいことをやって、人から憎まれて死にたい」と語っている。
私は個人的に言えば“好きではない人”だが、政治家として歯切れよく、感性とロジックで訴える姿勢は評価したい。要は、自分の言葉でしゃべっているということである。、現在の多くの政治家は、残念ながらこの点が欠けている。
重ねて言うが、見た目も経歴もかっこいいのである。本人もそれを意識していて、何を言っても許されると思っていたのではないか。その意味では鼻持ちならないイヤな奴といってもいいだろう。ただ、いたずらっ子のような笑顔が憎めないところもある。こうして厳しい批判をしていると、かっこいい慎太郎さんに嫉妬しているみたいで、自分がイヤになってしまう。
|