今年も、1年を振り返る時期になった。年齢を重ねるに連れて、新聞に掲載される「墓碑銘」が気になってくる。
「墓碑銘2023」には各界の懐かしい顔が並ぶ。ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎さん(88歳、3・3)、音楽家で非戦や環境、脱原発の運動家でもあった坂本龍一さん(71歳、3・28)、音楽グループ「アリス」のリーダー谷村新司さん(74歳、10・8)、動物と暮らした作家、畑正憲さん(87歳、4・5)、脚本家の山田太一さん(89歳、11・29)、人気作家の伊集院静さん(73歳、11・24)らが記憶に残るかたが多く泉下の人になった。。坂本さん、谷村さんは70代で、まだまだ活躍が期待できる年齢だけに、残念である。
このコラム欄でも取り上げた元毎日新聞記者の西山太吉さん(91歳、2・24)は、沖縄返還時の日米密約に関する機密公電を外務省職員の女性から入手。暴露したスクープによって国家権力を闘ったジャーナリストだったが、その密約文書の入手方法を「密かに情を通じて」というスキャンダルにすり替えられ、逮捕されて有罪判決をうけた。山作豊子の小説「運命の人」のモデルでもある。
西山さんが、この機密公電を託したのが「社会党のプリンス」と呼ばれ、衆院議長や北海道知事を歴任した横路孝弘さん(82歳、2・2)。横路さんは密約文書を基に国会で追及したが、政府は密約を否定。後から公開された米公文書で密約が明らかになったが、それでも国は否定し続けた。その横路さんが西山さんと同じ2月に亡くなっているのも、不思議な縁としかいえない。
個人的には、官房長官や自民党参院議員会長を歴任し、「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄さん(89歳、6・11)は、島根県の県議会議員時代からの知り合いだった。私が島根で新聞記者をしていた時、選挙となると情勢分析を聞きにいったものである。竹下登元首相の秘書として選挙運動にかかわってきた「幹さん」は、政治の師匠として頼りになる方だった。
ロシアのウクライナ侵攻は収まらず、中東ではイスラエルのガザ地区でハマスとイスラエル軍が衝突するなど、2023年は紛争に明け暮れた年になった。人間って、なんと愚かな生き物だろうと思わずにはおられない。墓碑銘を見ながら、ウクライナやガザでは有名人だけでなく無垢の人たちが毎日のように亡くなっている現実に、やりきれない思いが募る。
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