突然だったが、おかれている状況を考えればむしろ遅かったかもしれない。岸田文雄首相が「9月の自民党総裁選に立候補しない」と表明したのは、終戦記念日の前日である8月14日。派閥の政治資金パーティー裏金事件の引責と述べた。自民党への逆風のうえに再選の道は厳しく、退任は当然の帰結だったと思う。
9月12日告示の自民党総裁選に向けて、8月19日に最初の名乗りを挙げたのは小林鷹之前経済安保相(49)。それから、「ポスト岸田」の動きが一気に加速した。石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)、小泉進次郎元環境相(43)、上川陽子外相(71)、茂木敏充幹事長(68)、高市早苗経済安全保障担当相(63)、林芳正官房長官(63)ら出馬表明や最終調整をする候補が相次いだ。
最終的に何人になるか分からないが、10人前後が立候補するかつてない総裁選になりそうだ。衆院議員の任期が残り1年ほどになった。岸田政権は裏金事件もあって、支持率は危険水域のまま。このままでは選挙が戦えないとして、「党の顔」を替えて生き残りたいという思惑が透けて見える。
自民党への逆風は、総選挙になれば政権交代の可能性があるかもしれない、という危機感が党内を覆っている。そこで、ベテランから若手まで立候補した劇場型総裁選によって世間の目を集め、低迷する自民支持率を盛り返すチャンスにしたいということだろう。そのうえで、総裁選直後の衆院解散論が広がっている。「新味のある新首相で解散」という、長期政権を維持しているしたたかな自民党の生き残り戦術だ。
先の通常国会で成立した改正政治資金規制法は、小手先で消極的な改正に終わった。「政治とカネ」の問題を、根本から正したいという姿勢が自民党にはないと言わざるを得ない。裏金事件もそのうち国民は忘れるだろう、ということだろう。国民がここまでバカにされているのが分からないのだろうか。
これから、候補乱立による華々しい総裁選が繰り広げられる。候補者がメディアに露出して、きれいごとを言うだろう。口先にごまかされてはいけない。ここは、国民もメディアも総裁選を冷静に、冷静にみる必要があろう。そして、次なる選挙でも、金権政治がまかり通ってきた自民党政治に冷静な判断をしてほしい、と願う。
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